「水・光・香・音」に着目し、最先端の科学と縄文以来の日本の伝統文化の融合をテーマに、商品の原材料となる薬用植物の栽培・製造・成分分析まで一貫して行っている篠原康幸(しのはらやすゆき)さんと、日本人の根源にある「縄文意識」を呼び覚ます発信をしておられる伊勢神宮の吉川竜実(よしかわたつみ)先生にお話を伺いました。
日本古来の信仰と最先端科学の融合が、突破口となりそうです。
この瞬間に120%生き切る「0(ゼロ)意識」とは?
-最初に、吉川先生から「縄文意識」とは何かについてお話しいただけますか?
吉川竜実先生(以下、吉川先生):縄文意識での生き方については、自分の長所を出し切って、自分自身のため、家族のため、社会のためになっていく生業(なりわい)や役割に全力で勤しむことが大切です。
そして無我や没自然の境地になって、あるがままの自己を解き放って自由に生きていくことです。ただし、コトの成就や調和は神や宇宙にすべて委ねるのが大事です。
この時の時間軸は「過去➡現在➡未来」と一方通行で流れていくものではなくて、「今この瞬間に、過去も未来も全部集約して存在し、約1万年続いた縄文の人々も含めてあらゆる時代に生きた先人たちの想いや祈りも共有することができる」とされます。
これまで日本人は「人と違う」ことをすごく嫌がって、自分に強い制限をかける民族だったと思います。
ワガママでいいということではなくて、他人を思いやる気持ちも大切にしつつ、この瞬間に120%生き切るというのが、これからのライフスタイルの軸になると思っています。
「縄文意識」=0(ゼロ)意識(私=0=∞)=ゼロ・ポイント・フィールドともいえます。
伊勢神宮 吉川竜実先生
-私たちも吉川先生に学ぶうち、縄文時代に生きた人々の「多様性を尊重して、自然界に没入して生きる」という感性が、現代社会で迷える私たちに最も必要なことのように感じます。その感性を思い出せば、自分の真の部分に戻っていけるというイメージです。
篠原康幸さん(以下、篠原さん):はい、そこに戻っていくのは素晴らしいですね。
不思議なのですが……今の農園がある場所は、かつて縄文人のコミュニティがあった場所だったらしく、ここはいくつかの偶然が重なって取得した土地なんです。生息する植物群も原種のままで残っていることまでわかりました。
これは「最先端の科学技術と有史以来の時の流れを”今”に融合させて、皆がイキイキと暮らせる未来へと向かうモデルケースをつくる」というお役を与えてもらったんだろうと感じています。
吉川先生のおっしゃる、「今にすべてがある」ということが、このことからも分かります。
有限会社エッセンチア 篠原康幸さん
かつて縄文人のコミュニティがあった場所につくられたエッセンチアの畑と工場。生息する植物群も原種のまま。
神道における「水・光・香り・音」
吉川先生:篠原さんは、実際にエッセンチアという会社組織として農業から商品開発と分析・研究、さらに情報発信まで一貫して行っておられます。
さらに雇用も生み出し、経済活動のベースに則ったコミュニティをつくっておられるのが非常に現実的で面白いですよね。
調香師・薬剤師が基軸の専門で、式年遷宮にも関係のあるウルシを分析してもらったこともあります。
それから、神の装束を黄色に染める沖縄産ウコンにも繋っておられたのは驚きでした。
-お二方はご縁が深いのですね。神道では篠原さんが着目されている「水・光・香・音」をどのようにとらえていますか?
吉川先生:以前、こんなことがありました。
令和の今上陛下の即位礼(そくいれい)及び大嘗祭(だいじょうさい)後の神宮御親謁(じんぐうごしんえつ)の儀(大御神にご奉告されるご参拝)のとき、その日は土砂降りの雨でしたが、今上陛下が外宮の御垣内に参入された途端に止んで、内宮では晴天になりました。
陛下は豊受大神宮(とようけだいじんぐう)で「命を育む水のおかげをいただいた」とおっしゃられ、皇大神宮(こうたいじんぐう)では「あらゆる生命を育む日の光をいただいた」と……。
つまり外宮のご神徳(しんとく)を「水」に求められ、内宮では「光」に求められました。
これは、神道における水と光が実に大切なのかを象徴する出来事ではなかったかと考えています。
「神聖さ」を神道で物質的に追求すると、火(光)と水に尽きるんです。
それから、ご神域の森の中に入ると独特の木の香りに「気体に触れている」ことを感じますが、それはやはり「神気」に等しいのかもしれません。
物質の質量は、固体から液体、そして液体から気体に変化していって、気体の次の段階が光だという気がしています。
音については、「神さまの御心を鎮める」のはやはり歌と舞です。
このように、「水・光・香・音」というのは、すべて神道や伊勢神宮の重要な要素となっています。
これら古代から引き継がれてきた要素を、篠原さんが科学者として最先端技術で扱っておられるというのは、必要必然ベストのオールラウンドプレイヤーのようですね。
これまでの科学で扱っていたのは見える世界だけで、見えない世界は宗教や信仰の分野だとされてきましたが、見える世界と見えざる世界がお互いに協力し合って今後の未来をつくっていくのだと思うのです。
それは「過去にあった世界と『今』が繋がって同時に存在する」とでもいうのでしょうか……。
水はすべてを繋ぐ本質
篠原さん:伊勢神宮が、2000年以上、その見えないものを祭りの形として伝承してきてくれたからこそ、現代の私たちでも、「今」に、その過去を学ぶことができます。ありがたいです。
そして、人も目に見えるもの(物質)と目に見えないもの(精神)で成り立っていますので、そのどちらも大事ですね。
目に見えない「感じる」しかなかったものが科学的なアプローチで「そうだったんだ!」とわかると、すごく嬉しいですし。
目に見えない世界の秘密を、皆が「やっぱりそうだよね」と論理的にわかるようにすることが自分の役割かなと思っています。
「水と光」を用いて最先端の科学測定法を確立されたツェンコバ・ルミアナ先生(神戸大学名誉教授)と先日お会いしたのですが、その時に「華道や茶道のような道を『水』と『光』で作ったの。それを『水光道(みこうどう)と呼ぶの』と笑っておられました。
その時「なぜ光がはじめではなくて、水がはじめなんですか?」と聞いたら、「水がすべてを繋ぐ本質なのよ」と言っわれたのがとても印象に残っています。
これは、「水」を突き詰めていくと、水には「物質」と「エネルギー」の両方が含まれていることがわかります。
ここでいう物質とは、アミノ酸や糖、ビタミン、ミネラルなどで、エネルギーとは周波数のことですが、この物質も「今この瞬間の表現の仕方が違うだけで」、すべては光から成りたっているものです。
水は、すべてを映し出す鏡であり、あらゆる情報を記憶する媒体ですので、その水を観ていくと、その背景にあるものを理解できます。
吉川先生:伊勢神宮では、式年遷宮の「洗清(あらいきよめ)」という儀式のときに満月を映した水をすくって使いますが、月からの波動を受けていますよね。
武道の境地でも「明鏡止水(めいきょうしすい)」(※)という言葉があるけれど、これまで伝承されてきたようなことも、どんどん解明されていくんじゃないでしょうか。
※明鏡止水(めいきょうしすい):邪念がなく、澄み切って落ち着いた心の形容。
篠原さん:そんな素敵な儀式があるんですね。
おそらく、その月が映し出された水は、月の光によって、水の構造が変化していると思います。
今は、そういったことを近赤外線や赤外線を用いた分光法で科学的に評価できるので、その水を調べれば、それがどんな水かがわかります。
月の光を映し出した水が、どういう性質のものかがわかれば、そのうち「光を治療薬として使えるでしょ」ということになっていくと思います。
今、次世代の子たちを対象に寺子屋をやりたいと思っています。この子たちに科学の本質である「水・光・香・音」をテーマにして学んでもらい、これからの科学技術を皆が、簡単で使いやすいものに進めていってほしいです。
吉川先生:ぜひその寺子屋をやってほしいですね!芸術の分野からも少し付け加えたいのですが……。
以前、神宮の博物館の館長をしていたときに日本画家の西田 俊英(にしだ しゅんえい)さんと歓談した際、「物質的なものは彩色の七色で表すことができるが、精神的なものはモノクローム(白黒)で、その融合を描くときにはモノクロームの中にちょっとスペクトルを入れて彩りができてくる」とおっしゃっていました。
また、素粒子レベルの遠隔透視をされる脳科学者の方が、原子と原子のぶつかり合いを描いたものを描写した映像を見たことがあるのですが、岡本太郎の三原色の使い方や、太陽から放射されている光とそっくりだったのです。
つまり芸術家がアートとして表現していたものを、科学で捉えられるようになってきたのではないか。
ようやく今、あらゆる分野で目に見える世界と見えざる世界が融合しつつあるように感じています。
篠原さん:はい。化学の分野でも 、今までは「何の成分」が「どのくらい」入っているかを調べる物質的な分析法が主流でしたが、今後は、その物がどんな周波数を持っているかという、物質を光として扱うエネルギー的な分析法が、これに加わっていくと思います。
これは、水と光を観ていくことで可能になる分野です。
吉川先生がおっしゃられている脳科学者や芸術家の方々は、私たちが認識できない次元のものを見ているわけで、科学者は、そういったものにも耳を傾け、見える世界と見えない世界を上手く融合させていくと良いですね。
結果、私たちの生活が簡易で便利なものになればよいので。
篠原さん:今後、水と光の研究が進むと、エネルギーや医療分野などの物質面においても世界はより調和へ近づくと思っています。
水を調べるとき、水にいろいろな波長の光を当てるのですが、その光の波長ごとに水の構造がどんどん変化していきます。
水に光を当てて、水の構造が変わるこということは、からだに直接光を当てればからだの水の構造を変えることができるということになります。
こういった事実の積み重ねが「美」と「健康」への一つの扉を開き、将来、光を治療に使う時代がやってくると思います。
香りは時空間を超える
-香りについてはどうですか?
篠原さん:香りについてはすでに多くの論文が出ています。
香りは、情報を伝える物質として、脳に直接作用し心身に影響を与えることがわかってるんですよ。
じつは、香りは時空間を超えるものだと思っているんです。
私たちは香りを嗅ぐことで記憶が甦ったり、ある場面を思い出したり、アイデアが湧いたりと、意識が過去や未来へ行ったり来たりしますよね。
これが吉川先生の言っておられる「“今”にすべてがある」という縄文意識の証にもなります。
おそらく香りは、光の周波数が下がるときにはじめにできる有機物質で、これが「形」の原型になるのでは?と思っています。
すなわち、光の振動が下がると香りとなり、そして香りの振動がずっと下がってくると「形」になるという流れです。香りの語源はラテン語で「エッセンス(本質)」ともいいますから。
そういうことからも「形」の本質は光であり、香りであるということができるのではないでしょうか。
自立したコミュニティのモデルをつくりたい
吉川先生:篠原さんの会社「エッセンチア」のように、現実世界で共同体がうまくいっている場を訪れることで、「こういう生き方もあるのか」と感じられるお手本を示しておられます。
物質的な自立と精神的な自立の両輪で回すと、世界はすごいことになると思います。
篠原さん:そうですね。今後、世界は、地域ごとに、それぞれの特徴を活かした地域共同体を創り、その共同体同士が補足し合い、そして、それらが有機的なつながりをもって大きな流れになっていきます。
そして、その各地域には、特徴のある気候や風土、特産品がありますので、それらを活かして経済を回し、精神的にも物質的にも自主独立していくと思います。
この物質的な自立と精神的な自立が、個人にとっても国家にとっても最優先のこととなりますので、そのためには、先ず、個人の自立から始めていくことです。
この農場は、このために作ったようなものですので、「じゃあ、一度、ここを見に来てください」と。人は見たものしか信じませんので(笑)。
吉川先生:すべてが複雑化しすぎている世の中だからこそ、これからの時代はシンプルな暮らしとシンプルな考え方、そしてゆるやかに自主独立していくことが大事だと思います。
そして、世界に100匹目の猿現象を起こす国になること。
もうひとつ大切なことは、絶対に戦わないという「不戦」を決めることだと思います。
特別なカリスマはいらなくて、市井(しせい)の一人ひとりが主人公なんだということを自覚し、楽しく面白い世界へと向かっていきたいですね。
-本当ですね!物事の本質からコミュニティ論、これからのあり方まで示唆に富んだお話をありがとうございました。
《美習慣サポーター スタッフみのり 2024年6月)
篠原康幸(しのはらやすゆき)さん =薬剤師、調香師=
千葉県出身、1999年、有限会社エッセンチアおよびルース研究所を創業。同社代表取締役社長。※ ルース:スペイン語で光の意。
個人の自立から地域、日本の自立をテーマに、札幌市内にある自社農園でローズの生育から情報発信までの全てを行う。これが、今後の世界各国の地域のあり方や「地域自立・完結型社会」のモデルケースの一つであると提案する。香水ブランド「DI SER / ディセル」は、日本の伝統文化である「香道」を「先端科学技術」と融合・進化させ、香水として表現したもので、現在、スイス、スウェーデン、リトアニア、アメリカ(ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルス)、台湾などの世界各国へ製品を輸出。『オードヴィーブ・サンスクリーン』『オードヴィーブ・リリースクリーム』開発者。※ ディセル:見えるものと見えないものとをつなぐ意。
* * * * *
吉川竜実(よしかわたつみ)先生 =伊勢神宮参事、博士(文学)=
皇學館大学大学院博士前期課程修了後、平成元(1989)年、伊勢神宮に奉職。平成2(1990)年、即位礼及び大嘗祭後の天皇(現上皇)陛下神宮御親謁の儀、平成5(1993)年第61回式年遷宮、平成25(2013)年第62回式年遷宮、平成31(2019)年、御退位につき天皇(現上皇)陛下神宮御親謁の儀、令和元(2019)年、即位礼及び大嘗祭後の天皇(今上)陛下神宮御親謁の儀に奉仕。平成11(1999)年第1回・平成28(2016)年第3回神宮大宮司学術奨励賞、平成29(2017)年、神道文化賞受賞。
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